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青空あおぞら文庫ぶんこ提案ていあん 電子出版でんししゅっぱんというあたらしい手立てだてをともとして、わたしたちは〈青空あおぞらほん〉をつくろうとおもいます。… 1997ねんがつにち青空あおぞら文庫ぶんこ設立せつりつびかけにん 富田とみた倫生みちお 野口のぐち英司ひでじ 浜野はまの さとし 八巻やまき美恵みえ らんむろ・さてぃ LUNA CAT… 
著者|タイトル 頁数 青空文庫《ダイジェスト》
夏目漱石|吾輩は猫である(横)
夏目漱石|吾輩は猫である(縦組)
507  吾輩わがはいは猫である。名前はまだ無い。 どこで生れたかとんと見当けんとうがつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪どうあくな種族であったそうだ。この書生というのは時々我々をつかまえてて食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。… 
夏目漱石|倫敦塔(横)
夏目漱石|倫敦塔(縦組)
29  二年の留学中ただ一度倫敦塔ロンドンとうを見物した事がある。その再び行こうと思った日もあるがやめにした。人から誘われた事もあるがことわった。一度で得た記憶を二返目へんめ打壊ぶちこわすのは惜しい、たび目にぬぐい去るのはもっとも残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う。… 
夏目漱石|カーライル博物館(横)
夏目漱石|カーライル博物館(縦組)
17  公園の片隅に通りがかりの人を相手に演説をしている者がある。向うから来た釜形かまがたとがった帽子をずいて古ぼけた外套がいとう猫背ねこぜに着たじいさんがそこへ歩みをとどめて演説者を見る。演説者はぴたりと演説をやめてつかつかとこの村夫子そんぷうしのたたずめる前に出て来る。二人の視線がひたと行き当る。演説者は濁りたる田舎調子いなかぢょうしにて御前はカーライルじゃないかと問う。… 
夏目漱石|幻影の盾(横)
夏目漱石|幻影の盾(縦組)
38  一心不乱と云う事を、目に見えぬ怪力をかり、縹緲ひょうびょうたる背景の前に写し出そうと考えて、この趣向を得た。これを日本の物語に書きおろさなかったのはこの趣向とわが国の風俗が調和すまいと思うたからである。浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き、描景真相を失する所が多かろう、読者のおしえを待つ。… 
夏目漱石|琴のそら音(横)
夏目漱石|琴のそら音(縦組)
34  「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋灯ランプの穂を細めながら尋ねた。 津田君がこうった時、ははち切れて膝頭ひざがしらの出そうなズボンの上で、相馬焼そうまやき茶碗ちゃわん糸底いとそこを三本指でぐるぐる廻しながら考えた。なるほど珍らしいに相違ない、この正月に顔を合せたぎり、花盛りの今日きょうまで津田君の下宿を訪問した事はない。… 
夏目漱石|一夜(横)
夏目漱石|一夜(縦組)
12  「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」とひげある人が二たび三たび微吟びぎんして、あとは思案のていである。に写る床柱とこばしらにもたれたるなおの、この時少しく前にかがんで、両手にいだ膝頭ひざがしらけわしき山が出来る。佳句かくを得て佳句をあたわざるをうらみてか、黒くゆるやかに引けるまゆの下より安からぬ眼の色が光る。… 
夏目漱石|薤露行(横)
夏目漱石|薤露行(縦組)
35  世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸そぼくという点において珍重すべき書物ではあるが古代のものだから一部の小説として見ると散漫のそしりは免がれぬ。まして材をその一局部に取ってまとまったものを書こうとすると到底万事原著による訳には行かぬ。従ってこの篇の如きも作者の随意に事実を前後したり、場合を創造したり、性格を書き直したりしてかなり小説に近いものに改めてしもうた。主意はこんな事が面白いから書いて見ようというので、マロリーが面白いからマロリーを紹介しようというのではない。そのつもりで読まれん事を希望する。… 
夏目漱石|趣味の遺伝(横)
夏目漱石|趣味の遺伝(縦組)
64  陽気のせいで神も気違きちがいになる。「人をほふりてえたる犬を救え」と雲のうちより叫ぶ声が、さかしまに日本海をうごかして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっとこたえて百里に余る一大屠場とじょう朔北さくほくに開いた。すると… 
夏目漱石|坊ちゃん(横)
夏目漱石|坊ちゃん(縦組)
139  親譲おやゆずりの無鉄砲むてっぽうで小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほどこしかした事がある。なぜそんな無闇むやみをしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談じょうだんに、いくら威張いばっても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。とはやしたからである。小使こづかいに負ぶさって帰って来た時、おやじが大きなをして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かすやつがあるかとったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。… 
夏目漱石|草枕(横)
夏目漱石|草枕(縦組)
145  山路やまみちを登りながら、こう考えた。 に働けばかどが立つ。じょうさおさせば流される。意地をとおせば窮屈きゅうくつだ。とかくに人の世は住みにくい。… 
夏目漱石|二百十日(横)
夏目漱石|二百十日(縦組)
46  ぶらりと両手をげたまま、けいさんがどこからか帰って来る。「どこへ行ったね」「ちょっと、町を歩行あるいて来た」「何かるものがあるかい」「寺が一軒あった」「それから」「銀杏いちょうが一本、門前もんぜんにあった」「それから」… 
夏目漱石|野分(横)
夏目漱石|野分(縦組)
144  白井道也しらいどうやは文学者である。  八年まえ大学を卒業してから田舎いなかの中学を二三箇所かしょ流して歩いた末、去年の春飄然ひょうぜんと東京へ戻って来た。流すとは門附かどづけに用いる言葉で飄然とは徂徠そらいかかわらぬ意味とも取れる。… 
夏目漱石|虞美人草(横)
夏目漱石|虞美人草(縦組)
322  「随分遠いね。元来がんらいどこから登るのだ」 と一人ひとり手巾ハンケチひたいを拭きながら立ちどまった。「どこかおれにも判然せんがね。どこから登ったって、同じ事だ。山はあすこに見えているんだから」と顔も体躯からだも四角に出来上った男が無雑作むぞうさに答えた。… 
夏目漱石|坑夫(横)
夏目漱石|坑夫(縦組)
217  さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかりえていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行あるいたって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。いっそ始めから突っ立ったまま松とにらめっをしている方が増しだ。… 
夏目漱石|夢十夜(横)
夏目漱石|夢十夜(縦組)
26  こんな夢を見た。  腕組をして枕元にすわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくやわらかな瓜実うりざねがおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、くちびるの色は無論赤い。… 
夏目漱石|三四郎(横)
夏目漱石|三四郎(縦組)
225  うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに頓狂とんきょうな声を出して駆け込んで来て、いきなりはだをぬいだと思ったら背中におきゅうのあとがいっぱいあったので、三四郎さんしろうの記憶に残っている。じいさんが汗をふいて、肌を入れて、女の隣に腰をかけたまでよく注意して見ていたくらいである。… 
夏目漱石|それから(横)
夏目漱石|それから(縦組)
268  誰かあわただしく門前をけて行く足音がした時、代助だいすけの頭の中には、大きな俎下駄まないたげたくうから、ぶら下っていた。けれども、その俎下駄は、足音の遠退とおのくに従って、すうと頭から抜け出して消えてしまった。そうして眼が覚めた。… 
夏目漱石|門(横)
夏目漱石|門(縦組)
228  宗助そうすけ先刻さっきから縁側えんがわ坐蒲団ざぶとんを持ち出して、日当りの好さそうな所へ気楽に胡坐あぐらをかいて見たが、やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。秋日和あきびよりと名のつくほどの上天気なので、往来を行く人の下駄げたの響が、静かな町だけに、朗らかに聞えて来る。… 
夏目漱石|彼岸過迄(横)
夏目漱石|彼岸過迄(縦組)
320  さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかりえていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行あるいたって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。いっそ始めから突っ立ったまま松とにらめっをしている方が増しだ。… 
夏目漱石|行人(横)
夏目漱石|行人(縦組)
342  梅田うめだ停車場ステーションりるやいなや自分は母からいいつけられた通り、すぐくるまやとって岡田おかだの家にけさせた。岡田は母方の遠縁に当る男であった。自分は彼がはたして母の何に当るかを知らずにただうとい親類とばかり覚えていた。… 
夏目漱石|こころ(横)
夏目漱石|こころ(縦組)
273  わたくしはその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間をはばかる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆をっても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字かしらもじなどはとても使う気にならない。… 
夏目漱石|道草(横)
夏目漱石|道草(縦組)
230  健三けんぞうが遠い所から帰って来て駒込こまごめの奥に世帯しょたいを持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種のさびさえ感じた。… 
夏目漱石|明暗(横)
夏目漱石|明暗(縦組)
487  医者はさぐりを入れたあとで、手術台の上から津田つだおろした。「やっぱり穴が腸まで続いているんでした。このまえさぐった時は、途中に瘢痕はんこん隆起りゅうきがあったので、ついそこがきどまりだとばかり思って、ああ云ったんですが、今日きょう疎通を好くするために、そいつをがりがりき落して見ると、まだ奥があるんです」「そうしてそれが腸まで続いているんですか」「そうです。五分ぐらいだと思っていたのが約一寸ほどあるんです」… 
夏目漱石|変な音(横)
夏目漱石|変な音(縦組)
7  うとうとしたと思ううちに眼がめた。すると、隣のへやで妙な音がする。始めは何の音ともまたどこから来るとも判然はっきりした見当けんとうがつかなかったが、聞いているうちに、だんだん耳の中へまとまった観念ができてきた。何でも山葵わさびおろしで大根だいこかなにかをごそごそっているに違ない。自分はたしかにそうだと思った。それにしても今頃何の必要があって、隣りの室で大根おろしをこしらえているのだか想像がつかない。… 
夏目漱石|硝子戸の中(横)
夏目漱石|硝子戸の中(縦組)
139  硝子戸ガラスどうちから外を見渡すと、霜除しもよけをした芭蕉ばしょうだの、赤いった梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てるほどのものはほとんど視線に入ってない。書斎にいる私の眼界はきわめて単調でそうしてまた極めて狭いのである。… 
夏目漱石|正岡子規(横)
夏目漱石|正岡子規(縦組)
5  正岡の食意地の張った話か。ハヽヽヽ。そうだなあ。なんでも僕が松山に居た時分、子規は支那から帰って来て僕のところへって来た。自分のうちへ行くのかと思ったら、自分のうちへも行かず親族のうちへも行かず、此処ここに居るのだという。僕が承知もしないうちに、当人一人でめて居る。御承知の通り僕は上野の裏座敷を借りて居たので、二階と下、合せて四間あった。… 
夏目漱石|私の個人主義(横)
夏目漱石|私の個人主義(縦組)
34  私は今日初めてこの学習院というものの中に這入はいりました。もっとも以前から学習院は多分この見当だろうぐらいに考えていたには相違そういありませんが、はっきりとは存じませんでした。中へ這入ったのは無論今日が初めてでございます。 … 
夏目漱石|現代日本の開化(横)
夏目漱石|現代日本の開化(縦組)
28  はなはだお暑いことで、こう暑くては多人数お寄合いになって演説などお聴きになるのは定めしお苦しいだろうと思います。ことにうけたまわれば昨日も何か演説会があったそうで、そう同じ催しが続いてはいくらあたらない保証のあるものでも多少は流行過はやりすぎの気味で、お聴きになるのもよほど御困難だろうと御察し申します。が演説をやる方の身になって見てもそう楽ではありません。… 
夏目漱石|私の経過した学生時代(横)
夏目漱石|私の経過した学生時代(縦組)
8  私の学生時代を回顧して見ると、ほとんど勉強という勉強はせずに過した方である。従ってこれに関して読者諸君を益するような斬新ざんしんな勉強法もなければ、面白い材料も持たぬが、自身の教訓の為め、つまり這麼こんな不勉強者は、ういう結果になるといういましめを、思い出したまま述べて見よう。…